
50代前後の覚せい剤依存増加! アラフィフが陥る危険なワケ
清原和博元プロ野球選手は、逮捕時48歳。近年、実は50代前後の覚せい剤使用が増えているといいます。なぜ今、中高年に覚せい剤が蔓延しているのでしょうか。背景や若年層との違いを考察します。
●若年層の覚せい剤離れに対し、中高年層の覚せい剤依存は増加
警察庁発表「平成27年上半期の薬物・銃器情勢」によると、覚せい剤事犯の検挙状況は30代以下では、平成23年から年々減っています。
それに対し、40代はほぼ横ばいか若干の増加傾向にあり、50歳以上では顕著に年々増加しています。清原元選手の逮捕に関連し、実名と顔を公表して元薬物依存症者として自身の体験を語った、依存症回復支援をサポートする一般財団法人ワンネスグループのスタッフからも、50代前後の覚せい剤依存について、実例が聞かれました。若い頃に覚せい剤を体験したことがあった人が、中高年になってから、ふと再び手を出してみる。するとたとえ20~30年のブランクがあろうとも、一気に、そして簡単に依存状態に引き戻されてしまうのだ、と。覚せい剤とはそういうものだと。
●中高年特有の覚せい剤にハマる理由とは
社会や家庭で自分の存在意義を見失い、ふと若い頃の熱狂を思い出し、失われてしまった大切な何かを取り戻そうとでもするかのように、覚せい剤に手を伸ばす…。中高年の孤独が透けて見えるようで痛ましく感じられます。20代や30代、若い頃に感じていた自分の人生への希望。世の中の景気もよく、仕事にしてもプライベートにしても、何をやっても可能性を感じられていた年代。それが50代前後、中高年になった今、体力や仕事の処理能力に衰えを感じはじめる人もいるかもしれません。そして長引く不景気、熟年離婚、子どもや夫婦・家庭の問題、リストラ…、彼らを襲うのはそういった出口の見えない不穏なことばかり。抱える鬱屈、閉塞感。
そんな中、少しでも気力や体力をカバーしようと使う人もいるでしょう。まったく睡眠を取らずにいくらでも集中して仕事をすることができたり、心身の疲れが晴れる感覚がしたり、覚せい剤特有のある種の万能感を覚えるのかもしれません。
●若者には手の出ない高額な覚醒剤にも—中高年層の経済力が仇となる
また薬物乱用者の使用薬物別の平均年齢から見えてくることがあります。
・大麻乱用者…30.9歳
・危険ドラッグ乱用者…34.0歳
・覚せい剤乱用者…41.1歳
覚せい剤は危険ドラッグや大麻に比べ、かなり高額なものです。若年層よりも経済力に恵まれた中高年層のほうが、金銭的に手に入れやすい、という点もあるのではないでしょうか。
●覚せい剤は女性の使用率が高い。セックスドラッグとしてパートナーからの誘惑も
また薬物乱用者について、使用薬物別の男女比も特筆すべきでしょう。
・大麻乱用者・・・男性91.3%:女性8.7%
・危険ドラッグ乱用者・・・男性88.5%:女性11.5%
・覚せい剤乱用者・・・男性80.2%:女性19.8%
いずれも男女比は圧倒的に男性が多数ではあるものの、覚せい剤は大麻や危険ドラッグに比べ、女性の使用率が高いのです。ひとつには、セックスドラッグとしての使用の可能性が考えられます。セックスの際に覚せい剤を使用することで得られる快感は、一度体験してしまうと到底逃れられないと言われています。パートナーの男性から使わされてしまう、というパターンも聞かれます。
●50歳以上の覚せい剤事犯、再犯率は82.3%
また覚せい剤事犯の再犯率について、最新の平成27年上半期のデータでは、50歳以上は82.3%、40代では71.2%、30代では57.1%、20代では33.1%、20歳未満では17.9%。40歳を境に、そして50歳以上になるとさらに、と明らかに再犯率が高くなっています。これは前述の覚せい剤事犯で検挙された者の年代と一致します。覚せい剤の依存性の高さを示唆していると言えるでしょう。
薬物に対して「回復・治療」にいち早くシフトしたアメリカに比べ、「刑罰」つまり司法を重視してきた日本。結果、何十年も覚せい剤が蔓延し続けたままなわけですから、「薬物依存症」への根本的な見方を変え対策を改める、議論すべきところにきているのではないでしょうか。
決して他人事でも、遠い世界の話でもない。「依存症」とは、私たちの日常のすぐ隣にあって、誰でも簡単に陥る危険性のあるものです。それはあなたかもしれないし、あなたの大切な人かもしれない。 当事者意識をもって、「依存症」の問題を考えていくことは、私たち社会の課題ではないでしょうか。
(文/麻生マリ子、母娘・家族問題研究家)
女性たちの抱える生きづらさの背景として、母娘関係に着目。10年間に渡る取材・著述活動を経て、現在は母娘問題・家族をテーマに研究、著作。また新聞や雑誌、WEB媒体などへ寄稿、コメント提供を行う。1977年、福岡県生まれ。自身も娘を持つ母である。
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