
“自分の心を守る仕組み”に見る 脱・生きづらさのヒント
人はあまりにもつらく耐え難い体験が起きると、自分の心を守る仕組みを持っています。無意識にですが、心が傷付き壊れてしまうのを防ごうとするのです。生きづらさを抱えている人たちのなかには、無意識にこの仕組みを使って、なんとか現実を生き延びてきた人が少なくないのではないでしょうか。この「心を守る仕組み」は、精神分析学の創始者・フロイト父娘によって考えられた概念で「防衛機制」と呼ばれます。そのなかから、日常のなかで起こりやすい代表的なものを7つご紹介しましょう。
●1:抑圧
抑圧とはつらい記憶を無意識下に閉じ込めてしまうことです。簡単に言えば、つらい出来事を忘却の彼方に追いやってしまうのです。記憶は深い深い沼に沈められます。子どもの頃の記憶があまりない、という人がいますが、なんらかの抑圧が働いていることも可能性のひとつとして考えられます。「記憶の欠落していた過去のトラウマ体験が、ある日突然夢に見たことで甦った」という臨床事例も珍しくないと聞きます。
●2:否認
自分にとって受け入れ難い体験を「なかったこと」にしたり「たいしたことなかった」と、事実を軽視し矮小化したりすることによって、恐怖や不安を回避しようとします。つらい体験を話しているはずなのに、不自然に内容にそぐわぬような笑顔をこぼしたり、あるいは事実を誇張したり冗談めかしておもしろおかしく話したりするというのも、一例でしょう。
●3:隔離
虐待を受けた子どもが「自分が虐待されている光景を、天井のほうから見ているもうひとりの自分がいた」などと語ることがあります。乖離と呼ばれる状態ですが、つらさのあまり感情を自分から切り離して、自らを守ろうとするのです。
●4:投影
自分の抱いている不快な感情や受け入れ難い感情を、他人のなかに映し見て、あたかも相手がその感情を持っているかのように思い込むこと。たとえば、本当は自分が相手を「憎い」と思っているのに「相手から憎まれている」と思い込むことで、自分の感情と向き合うことを回避します。「相手が自分を好いている」「相手が自分を誘惑してきている」という投影が過剰になれば、ストーカー行為や性的犯罪に繋がる危険性を孕んでいるといえるでしょう。
●5:合理化
事後に論理立てたこじつけをすることによって、自分を納得させること。イソップ童話の『すっぱいぶどう』が好例です。高いところになっていたぶどうを欲しかったキツネ。手の届かなかったフラストレーションを「あんなぶどう、きっと酸っぱくて食べられたものじゃなかったに違いない」と思うことで解消。やりきれない気持ちをおさめようとします。
●6:退行
直視し難い現実に出合ったとき、実年齢より幼い状態に戻ってしまうこと。行動や言動、思考が幼くなり、赤ちゃん返りのようになる場合もあります。「窃視症」(のぞき見)も知的好奇心が退行した状態という説も唱えられています。また「添い寝サービス」など、幼い子どものように扱われることを求める人も退行を起こしているのではないかと考えられます。
●7:昇華
そのままでは社会に受け入れられ難い欲求を、社会に適用し容認されるかたちに変えて表現すること。性的欲求や怒りが、芸術や政治活動として表現されることがしばしばあります。なおそうした芸術家が、先述の「退行」を起こすと、描画が突如殴り書きになるといったことが起こるそうです。
このように、私たちは無意識に自分の心を守る仕組みを持って生きています。上手に機能させることで、より生きやすいところに身を置くのもひとつ。しかしもしあなたが極度に頻繁にこれらの仕組みを使っているとしたら、それは「そうせざえるをえない」状況に、あなたが置かれてしまっている、ということではないでしょうか。
もしそのことに気付いたら。自分の環境や人間関係、家族関係などを見直してみる勇気を持つ…、大変なことではあるでしょうが、そういった方向へ考えかたをシフトするのもひとつです。
生きづらさを抱えている人たちが、生きやすくなるように。本来の自分らしい人生を心豊かに生きられるように—そう願ってやみません。
(文/麻生マリ子、母娘・家族問題研究家)
女性たちの抱える生きづらさの背景として、母娘関係に着目。10年間に渡る取材・著述活動を経て、現在は母娘問題・家族をテーマに研究、著作。また新聞や雑誌、WEB媒体などへ寄稿、コメント提供を行う。1977年、福岡県生まれ。自身も娘を持つ母である。
・ブログ:http://ameblo.jp/asomariko/
・公式Facebookページ:https://www.facebook.com/asomrk/