
生きづらい人たちが植えつけられている“無実の罪悪感”
●子どもはなぜ罪悪感を抱くのか
今回は生きづらさを抱える人が抱えていることが多い「罪悪感」がテーマです。
依存症までいたらなくとも、何らかの生きづらさを感じている方によく見られるのが「罪悪感」です。ほとんどが幼い頃に親との関係のなかで身につけてしまったものと言っていいでしょう。
精神的・身体的に、親から理不尽に傷付けられている子どもがいたとします。でもそれでも子どもはお母さん、お父さんのことが大好きです。大好きな両親からいわれなく傷付けられる日々。
なぜだろう…。「そうか、僕が悪い子だからいけないんだ。
子どもはそのように理解することで、自分の置かれている状況が“腑に落ちる”わけです。
しかしこの場合、子どもに罪はあるでしょうか?
最近、「毒親」という言葉がブームになっていますが、そのきっかけとなった書籍『毒になる親』(スーザン・フォワード著/講談社+α文庫)では、これを“無実の罪悪感”と称しています。言い得て妙でしょう。
子どもが罪悪感を植え付けられる方法・パターンはいくつかありますが、上記はひとつの例です。
●「殺してでも金を持ってこい」…母に支配され、祖父母殺害に至った少年
「罪悪感」は子ども(に代表される力関係において圧倒的弱者の立場の者)を支配・コントロールするには、これ以上ないほど便利な道具です。一見、子どもが自分の意思で物事を行っているかのように見えるほどに、巧妙に子どもを動かすことができてしまうのです。
2014年に川口市で17歳の少年が、祖父母を金銭目的で殺害する事件が起きました。
少年は幼い頃から、母親と義父によって過酷な暮らしを強いられてきました。小学生の頃から、ホスト狂いの母が自宅に招くホストたちの相手をさせられ、学校に通うこともできない。義父からは身体的な暴力を受けていました。
親戚中に金を無心する役割、義父が“バックレた”職場に勤めさせられた上、給料の前借りをする役割を担わされてきました。被害者となった祖父母宅に向かう際にも「殺してでも金を持ってこい」という母からの圧力があったと言います。
親は見事なほど巧妙に、子どもに罪悪感を抱かせます。
直接的な言語による指示や、身体的な暴力がなくとも、子どもに自発的に罪悪感を抱かせ、支配・コントロールすることは可能なのです。
本件の判決では、母からの“心理的な支配”が十分に理解されたとは言い難く、個人的には残念に感じている点があります。
●“かわいそうなママ”を助けるために盗みを働いた少年
また2012年には、離婚して元夫と暮らしている小学校6年生の男児に、別に暮らしている実母がケータイメールで「元夫の交際相手の女性の財布から金を盗む」よう指示し、逮捕されました。
実母が息子に送ったメールは「明日までに1万円ゲットして」「金をゲットできなかったらママ死ぬわ」などというものでした。小学校6年生の子どもにとって“ママが死ぬ”とはどんな恐怖だったことでしょう。“かわいそうなママ”を演じた脅しです。
補導された少年は、こう供述したと言います…「悪いことだとわかっていたけれど、お金を渡すとママが嬉しそうな顔をしたので、僕も嬉しかった」
親子関係に限りません。圧倒的な力関係にあるもの同士ならば、これは成立します。
強者が弱者を「罪悪感」により支配・コントロールする…この根深さに、私たちはもっと自覚的であるべきではないでしょうか。
(文/麻生マリ子、母娘・家族問題研究家)
女性たちの抱える生きづらさの背景として、母娘関係に着目。10年間に渡る取材・著述活動を経て、現在は母娘問題・家族をテーマに研究、著作。また新聞や雑誌、WEB媒体などへ寄稿、コメント提供を行う。1977年、福岡県生まれ。自身も娘を持つ母である。
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