
依存症回復のための新しい選択肢、 アジア、アメリカ…海外ケア施設での、人生の生き直し。
●依存症は誰でもなり得る「心と脳の病気」
アディクションラボでは、くり返しお伝えしていることですが、依存症という病気についての正しい理解は、まだまだ世間一般に広がっているとは言えず、「アルコールや薬物、ギャンブルがやめられないのは、意志が弱いから」と思われている場合も多いのが現状です。一方、欧米など諸外国では、精神疾患として理解されており、様々な回復プログラムが医療として提供され、エビデンスに基づいた正しい知識をもって回復支援が行われています。
薬物やアルコール、ギャンブルなどの依存症のほかにも、喫煙によるニコチン依存、買い物依存、ゲームやインターネットへの依存など、依存症という病気は、私たちの身近に常に存在し、いつ誰にでも起こり得ることなのです。
どんな病気でもそうですが、病気になって初めて、「自分のこと」として理解が深まることがほとんど。「病気」としての社会的認知が進んでいない依存症においては、回復方法があることも知られていないというのは、納得できます。
●世間の目がストレスになり、依存をくり返してしまうことも
依存症の回復を目指すとき、日本全体として環境が整っているとは言い難い面があります。薬物を購入していた場所や行きつけの酒場やギャンブル場などといった「環境」や、家族や周囲の人など巻き込んでいった「人間関係」など、依存症の影響下にあった生活圏と同じところで回復しようとする場合、世間の目などのストレスがあったり、フラッシュバックが起こりやすかったりと、そのストレスから、さらに依存に陥ってしまう可能性もあります。回復の邪魔になる要素を回避するためにも、今までの生活圏とまったく異なる環境に、思い切って身を置いて、回復の道を歩むことは、非常に効果的な方法でもあります。
また芸能界など目立つ存在の方、社会的に著名な方の場合は、回復のための治療やプログラムを行っても、それ自体が騒がれたり、周りの目や自分のプライドなどが邪魔をしたりすることもあるでしょう。こういった点を考慮して、依存症回復支援の環境が整っている海外施設での生活を望まれる方もいらっしゃいます。今、国内のこういったニーズに対して、海外施設へのコーディネイト、日本からの生活支援が行われるようになってきました。
●アジア、アメリカ…「海外依存症ケア施設」という選択肢
安心して利用できる海外依存症ケア施設の例として挙げられるのは、アメリカやアジア圏の施設です。
まず、アメリカにおいて有名なのは、1980年代から活動を続けているのがアミティ財団です。アリゾナ州を拠点とする回復支援施設『アミティ』は、薬物依存症者の回復支援が中心。お互いがお互いを癒し支えていく「治療共同体」という概念を生み出し、現在の依存症回復支援の原点と言われています。
この「治療共同体」モデルとは、依存症に苦しんだ人が癒され、本来の自分を取り戻した回復のノウハウを、同じ経験をしている仲間たちへバトンのように直接伝えていく方法です。このメソッドに沿ったトレーニングが、豊富なカリキュラムとともに、1980年代から続けられてきました。『アミティ』は依存症に苦しむ人々にとって、家族以上に家族であり、故郷のような場所、依存症回復の理想郷とも言われています。
アメリカに比べ、日本からの距離が遠くないアジア圏にも、このような治療共同体の考え方に基づく依存症回復施設がいくつもあります。ゆっくりとした時間が流れる自然あふれる環境下でプログラムを受けることにより、自身の生き方を見つめ直す大きな機会になるという考え方があります。
日本のワンネスグループは、治療共同体連盟に加盟。このネットワークが海外での回復を望む日本人をサポートすることに繋がっています。また、スリランカ・コロンボに本部を置く、ICCE(国際アディクション専門職認定教育センター)でも、ワンネスグループの矢澤祐史氏は日本理事として加わり、アジアやアフリカ、中南米など各国で活動している依存症ケア施設との連携を図っています。
●日本と海外との「橋渡し」。国内団体の活動
ワンネスグループ代表の矢澤氏は、日本国内に住む依存症者と海外ケア施設との橋渡しをする「エージェント」として活躍しています。依存症に苦しむ方、それぞれの特徴をよく考慮したうえで、適切な施設の紹介を行っています。
なぜ、エージェントとして活動できるのでしょう? 矢澤氏は「これまで、海外のケア施設のみならず、海外で活動している依存症支援のスペシャリストとも連携を深め、日本にも講師としてお越しいただいた経験の積み重ねがあることが大きな理由」と語ります。
2011年には先ほどご紹介したアミティの共同創設者であるナヤ・アービター氏、ロッド・マレン氏を招聘。今年1月にはアミティのプログラムスタッフをワンネスグループの施設に招き、施設スタッフのトレーニングを行いました。また、昨年、ICCEの中心メンバーであるテイ・ビエン・ホウ氏をはじめ、アジア圏で依存症回復支援に携わる方々に来日いただき、日本政府関係者との意見交換会を実施しました。
その他、アメリカの施設で依存症再発予防のスペシャリストを務めているローランド・ウィリアム氏は、毎年、来日しています。アメリカなどのギャンブル依存回復施設で働くカウンセラー養成を行うIGCCB(国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会)代表のロリーン・G・ルーグル博士も来日。こういった取り組みを継続的に行うことで、海外施設とのネットワーク拡充につながっているそうです。
矢澤氏は「最近、アディクションカウンセラーの育成にも力を入れている。エリクソン催眠の第一人者であるロクサーナ・エリクソン博士の招聘は今年6月で2度目となり、ルーカス・ダークス博士によるメンタルスペース心理学のソーシャル・パノラマもこの夏に2度目の開催をする」と語っています。
「世界には、より効果的な依存症回復プログラムが数々ある。それらを国内へ導入するだけでなく、直接海外でプログラムを受けたいという方のサポートもしたい」と、矢澤氏は積極的にエージェント活動を行っています。
「依存症は進行性で自然治癒のない病気」とも言われます。治療・回復のために、海外でまったく新しい環境に身を置くのも選択肢のひとつ。本人が海外にいると家族の目が届かず、手綱が外れて依存がさらに深刻化するのではないかという心配は、日本のエージェントが連携し、日本から親密なサポートが行われるので安心です。過去のことを誰も知らない場所で新しいスタートができることは、特にプライバシーが気になる方には適しているのではないでしょうか。
【矢澤祐史氏プロフィール】
一般財団法人ワンネスグループ代表/海外依存症ケア施設エージェント
刑務所内での覚せい剤離脱教育講師、内閣府におけるプレゼンテーションも実施。
薬物・ギャンブル・アルコール依存症回復支援施設である「GARDEN」「セレニティパークジャパン」「セレニティパークジャパン沖縄」、女性専門施設「FlowerGarden」を設立。回復者の社会復帰を支援する雇用創生事業も行う。日本アディクションインタベンショニスト協会も設立し、カウンセラー養成にも力を注いでいる。
また、家族支援・介入相談センター「日本ファミリーインタベンションセンター」を創設。介入(インタベンション)の手法で、病気を否認する依存症本人を回復資源に繋げる活動を行う。
アルコール依存症の父親のもとで育ち、自らも10代で薬物依存症を経験する。20代で回復に目覚め、依存症施設職員を務める一方で、最新の治療プログラムを求め渡米。その中で培った経験から、「一人ひとりのクライアントにあわせた個別治療プログラム」をモットーに、治療への介入(インタベンション)から解毒、そして社会復帰に至るまでの包括的な依存症解決プランを、クライアントに提示する支援に取り組んでいる。依存症者の家族や子どもに対するカウンセリング、セミナー、小学校から大学まで幅広く講演活動なども行う。
ICCE(国際依存症専門職認定教育センター: 本部スリランカ)日本理事
IGCCB(国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会:本部米国)日本指定教育機関 代表
NADAI(国際アルコール・ドラッグインタベンショニスト協会 :部米国)日本支部代表
IC&RC (国際カウンセラー認定・相互交換組合)日本科学諮問委員&執行役員
全米上級マスターインストラクターII
認定全米薬物&アルコールインタベンショニストIVマスターレベル<
上級マスターアディクションカウンセラーII
CINAPS 依存症再発予防認定スペシャリスト
<参考サイト>
『アミティ』『ワンネスグループ』依存症治療共同体トレーニングプロジェクト
http://oneness-g.com/amity/