
依存症回復のために④~ 回復の目標~社会復帰と専門職化~
写真は就労支援プログラムの一環として、飲食店や農園で働く依存症の回復者。イキイキとした表情で仕事に取り組み、充実した新しい生き方を手に入れられています。お客様からの「ありがとう」や「おいしかったよ」の声は、依存症で苦しんでいた時には得られなかったうれしい言葉。
●社会生活の中で依存対象を再使用しない
このシリーズでは、依存症からの回復について国内の現状をお伝えしています。4回目となります今回は「依存症からの回復の目標」について考えます。
依存症回復のありかたのひとつとして、「社会生活のなかで依存対象を再使用しない」ということがあります。かつては、薬物、アルコール、ギャンブルなどがコントロールできなくなり、仕事や家庭に影響を及ぼし、自身の生活パターンも脅かされる状況にありました。依存傾向が悪化した方の多くは、例えば、仕事先から解雇を言い渡されたり、離婚や一家離散、経済的にも心身的にも生活が営めなくなってしまったりという経験をされています。
社会生活を続けながら依存回復をされる方、すべてを手放し依存症回復施設や医療機関で支援を受け回復をされる方、ケースは様々ですが、共通して言えるのは、再び社会生活を営む中で再使用せずに健康的な生活を継続していくことが目標です。これを実現するためにどのようなことが必要なのか、様々な支援が考えられます。
●依存症者の社会復帰を支える手立て
前回までにご紹介した、依存症の回復支援施設のなかには、施設退所後の生活を見据えた支援をおこなっているところがあります。自身の感情を知り、不快な感情を抱いたときの対処法を手にする「エモーショナル・リテラシー」はじっくり時間をかけて行っていきます。また、依存対象の再使用につながりやすい自身の状況、行動パターンを‘再発の危険信号’と捉えて行動の変容をはかっていくのは「ゴースキー・メソッド」と言います。
依存対象を使用している、していないに関わらず、自身をとりまく社会の環境に大差はないはずですから、ポイントは、当事者自身が社会とのつながりの中で、何をどう受け止め、どう考えるかにあります。その点、「単に依存を止めている」だけの状況では、社会とのつながり方の困難さは変わっておらず、再発のリスクも高まります。
施設での支援の利点は、「就労プログラム」という、本格的な社会復帰の前にひとつの段階を置いている点にあります。入所からの一定期間は施設内でくり返し、上記のようなプログラムに取り組み、他の入所者との共同生活のなかで人間関係を深める練習も行います。しかし、施設に一生いるわけにはいきません。途中からは社会復帰のために、日中は近隣の事業所で働きながら、社会のなかで、これまで身につけてきた施設プログラムを使って、依存対象を使わずに社会生活を行う練習をスタートします。
多くの依存症者は、「働く」ということ自体の経験は多く持っています。能力が高く、真面目に取り組み、社内での評価が高かった方も少なくありません。しかし、依存の使用によって足元をすくわれてしまったのです。そのような意味では、就労プログラムは「依存対象を使わずに仕事を続けていく練習」といえましょう。
一方、少年少女の若い時期から依存状態にあった方については、就労経験が少ない、あるいはまったくないまま成人になるというケースもあります。その場合には、そもそも働くという練習から行う必要も考えられます。依存症回復支援施設の中には、履歴書の書き方や面接の練習を行うところ、地元のハローワークや若年層向けの就労支援機関との連携を行うところがあります。
また「雇用創生」「就労支援」という名前で、農園や飲食店などを運営している回復施設もあり、依存症回復の支援と平行して働く練習をすることができるメリットがあります。場合によっては、飲食店ののれんわけのようにして、独立して仕事ができる可能性があるというのが、現在の依存症回復支援の先端といえましょう。
●「自身の依存症経験」と「エビデンスに基づいた回復支援」の両輪…アディクション専門職
また、自身の経験を、今、かつての自分と同じ経験をしている方と仲間として共有し、自分が回復に成功したように仲間を成功へと導びく「手助け」ができる存在になることも社会復帰のあり方のひとつです。
依存症回復施設とは別に、いわゆる自助グループ(AA、断酒会、NA、GAなど)が回復の手段としてありますが、自助グループの中でも苦しんでいる仲間の手助けが自身の回復につながり、グループ内での役割(ミーティング会場の準備や献金の管理、グループ内会議の司会など)を通して、社会性を改めて手にしていく効果があるという考え方もあります。仲間を助けることで、自らが癒される相乗効果もあり、自分の存在価値を感じられなかった、かつての依存症当事者が、自分の中に光を見出す大切な活動です。
そして、依存症回復施設のなかには、社会復帰のありかたのひとつとして、アディクションの専門職として施設内外で活躍するというケースが現れ始めています。
海外にはICCE(国際アディクション専門職認定教育センター)、IGCCB(国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会)、NADAI(全米薬物アルコール問題インタベンショニスト協会)などがあり、それぞれの団体がカウンセラーやコーチの養成講座を開催、国際ライセンスが発行されています。日本でもこういった団体の資格取得ができる準備が整ってきました。国際的な資格ですから、海外にも活躍の場を広げることが可能です。
自らが依存症であったからこそ、当事者の気持ちがよく理解でき、同じ目線に立って共感したり、アドバイスしたりできることは、カウンセラーとして最適です。依存症回復支援先進国である欧米の専門家は、ほとんどが依存症経験者です。日本でも近い将来、そのような時代が訪れてくれることでしょう。
国際アディクション専門職認定教育センター
http://oneness-g.com/icce/
国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会
http://oneness-g.com/igccb/