依存症ラボ

NCPG
ギャンブル依存症 2016.12.21

カジノ法案成立、急がれるギャンブル依存症対策。カジノ先進国から学ぶこと。

●カジノに歴史のあるアメリカの現状

いわゆる“カジノ法案(IR推進法案)”が国会で成立し、日本でもカジノ解禁が現実になりつつあります。成立までが急だったこともあり、メディアでも慌ただしく報道されました。そこで初めて耳にしたという方も多かったのではないでしょうか? 現在、日本にカジノはありませんが、欧米やアジアなど、さまざまな国には存在し、メリットやデメリットもはっきりとしているため、カジノの是非について議論が高まっている日本は多いに参考にするべきだと考えます。

世界三大カジノといえば、マカオ、ラスベガス、シンガポール。とくにラスベガスはアメリカのネバダ州にあり、歴史も古く、きらびやかな存在感は圧倒的です。アメリカでは全50州のうち23州でカジノが解禁されています。カジノのメリットには経済効果や自治体への税収などがあげられますが、デメリットとしての治安の悪化やギャンブル依存症問題は深刻なようです。こういった背景もあり、ギャンブル依存症対策に取り組む国際的な機関や団体が活発に活動しており、各州、そして国をあげて依存症対策に力を入れています。

●アメリカ、ギャンブル依存症専門家のコメント
NCPG(全米問題ギャンブル協議会)とは、アメリカ国内の合法的ギャンブルに中立の立場をもち、ギャンブル問題の低減を目指すNPO団体です。ワシントン州に『MGM(ホテルチェーン名)ナショナル・ハーバー』というカジノが新しくオープンしたことについて、NCPGスタッフとギャンブル依存症専門カウンセラーが対談した内容が興味深かったので、紹介します。その2人はNCPGエグゼクティブ・ディレクターのキース・ホワイト氏と、MSW、LCS-1、ICGC-1など、ギャンブル依存症に関する高いレベルの専門職資格を持っているマイケル・ローゼン氏です。

現在、ワシントンDCには、約15万人のギャンブル依存症者がおり、その対策や支援に社会的コストが発生し、悲劇が起きているそうです。たとえば、メリーランド州では年間数百万ドル(数億円)が、予算として確保され、依存症対策に使われていますが、ワシントンDCやバージニア州では、メリーランド州ほど十分でありません。
ワシントンDCの地域では、MGMがオーブンするまでに、ギャンブル依存症問題で、すでに50億ドル(約5000億円)もの損失を抱えているそうです。それであるのに、また新しいカジノがオープンされたことに懸念の色が隠せない様子でした。
キース・ホワイト氏は、「ワシントンDCにおいて、MGMがオープンした今、さらに重要になってくるのは、まず子どもたちに対する依存症防止と教育のプログラム、そして大人には自分のギャンブルが適正な範囲を超えたら、問題を相談して支援を受けるように伝え、認識させること」と述べています。

対談の中盤は、マイケル・ローゼン氏が自身の経験を語っていました。ギャンブル依存症に関しては「回復した」ではなく、何年ギャンブルを断てたとしても、つねに「回復途上」だととらえる必要性があるそうです。もちろんマイケル氏のような専門家も含めて。回復したと捉えると、リラプス(再びギャンブルをする)することがあるというのです。また通常であればギャンブル依存症者は、回復が続いたとしても、ギャンブル性の高い場所へ行くのは避けるべきとも述べています。
マイケル氏は、対談の最後に「リラプス(再びギャンブルをすること)したとしても、回復と支援の希望がそこにはある」と述べました。そして、相談のためのたくさんのホットラインを持つべきだと締めくくりました。
番組では最後に、NCPG(全米問題ギャンブル協議会)のホットラインが紹介されました。ちなみに昨年、メリーランド州からは約8万件のコールがあったそうです。キース・ホワイト氏は、ホットラインがたくさんあることを知ってもらう必要性を語り、また、カジノを運営するMGMに責任を果たしてもらうことも大事だとも語りました。

●日本でのギャンブル依存症対策に活かせる点
すでにギャンブル依存症で苦しむ方が多く、5000億円もの損失が出ているにも関わらず、さらに新しいカジノが誕生したアメリカ・ワシントン州。カジノの前に、子どもたちへのギャンブル依存症の予防教育が何よりも大切だと提案されていました。また実際にカジノが楽しめる大人へはギャンブル依存症の啓発、適正な範囲を明確にすること、また問題が深刻化する前に相談をするためのホットラインの充実などがあげられました。そしてギャンブル依存症対策は運営側も責任を持つべきだと。

こういった点は日本でも大いに参考になるのではないかと考えられます。日本にはカジノはありませんでしたが、パチンコやスロット、公営レースなどギャンブル性の高いものは多く存在してきたわけです。また最近ではネットゲームでの課金問題など、ギャンブル依存症になりえる対象に、子どもでもアクセスできる時代です。カジノだけを問題視するのではなく、カジノ法案をきっかけに、日本が抱えているギャンブル性の高い対象について、広く考える必要があるのではないでしょうか? また、回復支援を担う施設の整備、ギャンブル依存症専門のカウンセラーの育成など、専門家による予防教育、啓発運動の活発化も望まれるところです

国内でギャンブル依存症専門の支援を行っているワンネスグループ(奈良、沖縄、名古屋)では、2013年よりNCPG(全米問題ギャンブル協議会)との連携をスタートし、アメリカにおける課題やその対策、最近では「予防」についても、様々に学んでいるそうです。さらにアメリカのIGCCB(国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会)で発行されてきた、ギャンブル依存症に関する国際カウンセラー資格を、日本でも取得できるように準備を行ってきました。2016年10月には、日本で初めて、ICGC-1の資格(マイケル・ローゼン氏が持っていた資格と同じもの)をワンネスグループのスタッフが取得しています。今後はさらに高いレベルの資格の取得と、資格の拡大を目指しているそうです。国内でのギャンブル依存症対策が本格化、また拡大化する動きが感じられます。対人支援に携わる方々だけでなく、自治体の担当者やギャンブルを運営する側の方にも、深く知っていただき、連携が取られることが望まれます。

依存症相談窓口

ギャンブル、アルコール、薬物依存症でお困りならご相談ください。
薬物問題でのご相談の場合も、秘密は守られます。安心してご相談ください。

依存症SOSメール相談