依存症ラボ

Momota
ギャンブル依存症 2016.04.13

バドミントン選手の違法賭博問題を通して、今、私たちが考えたいこと

ギャンブル依存症問題回復支援の専門家
精神福祉士 三宅隆之

●スポーツ選手の違法賭博問題について
先日より、リオデジャネイロオリンピック有力候補だったバドミントン選手による違法賭博問題のニュースが続いています。オリンピックに出場できなくなっただけでなく、団体所属選手としても非常に厳しい処分が決定したのは報道の通り。「闇カジノ」「派手な私生活」など、過激な表現でワイドショー的に報じられた記事も見かけます。メダル獲得も有力視されていたという若手選手が支払った、本当の意味でのギャンブルの対価は計り知れず、非常に心が痛みます。
最近はスポーツ選手によるギャンブル問題のニュースが断続的に続いており、気になっています。バドミントン選手のコメントにも「野球賭博の報道を見て、怖くなった」とありました。彼らは氷山の一角で、今、この瞬間にも同じ思いを抱いている方がいるかもしれません。
スポーツ選手はとかくヒーロー性が求められます。特にオリンピック代表選手に、私たちは努力と苦労を重ねてきた人と、どこか清廉としたイメージを求めているところもあります。今回の報道、私たちが抱くイメージとかけ離れていたこともあって、世間が強く注目しているのかもしれません。

●スポーツ選手とギャンブルの親和性
ギャンブルには強い依存性があります。アスリートは勝負師です。つねに勝ち負けの世界に身をおき、「勝つ」ことに絶対の価値観を持って生きています。それは裏返せば、同じ大きさだけ「負け」への不安とつねに対峙していることであり、プレッシャーは一般の私たちには想像できないものでしょう。
ギャンブルも構造的には「勝ち」がすべてです。アスリートとの心理と親和性があると指摘する専門家も多くいますし、海外ではアスリートとギャンブルの問題の研究も進んでいます。
私が代表を務める施設、セレニティパークジャパンを利用する方の中には、かつてプロスポーツ選手を目指していた方や、何らかの大会を目指していたという方が少なくありません。彼らからはやはり「勝ち」への思いが聞かれ、苦しみや挫折感などと、ギャンブルがマッチしていったという体験を語ってくれます。
もちろん、違法行為は違法行為です。しかし今回の若い選手の報道を通して、選手の心のうちに何があったのだろうかと、考えずにはいられません。
昨年の野球賭博問題以降、スポーツ選手としての心構え、精神面や道徳面といった部分を立て直さないといけないといった意見がそこかしこから聞こえ、各スポーツチームもコンプライアンスの面も含めた指導を行っています。しかし、止まらないギャンブル問題。
もしかすると指導そのものが、ツボを外しているのかもしれません。私たちが普段、使用しているスポーツチーム向け、依存症啓発資料を抜粋します。スポーツ選手の心理をわかりやすくまとめています。

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スポーツ選手に限らず、ギャンブル依存症者によくあるパターンもあります。とくに「自分はどのように見られているのか」という、周囲への見栄の部分は、とくにあてはります。そこに、先ほどのスポーツ選手特有の不安、緊張感、プレッシャーなどが加わり、そのような心の状態に、たまたま出会ったギャンブルがマッチして、ギャンブルにはまっていくのです。人によって、そのマッチする対象が、覚せい剤や他の違法ドラッグ、アルコールになる場合もあります。
この図では紹介されていませんが、ギャンブルをしているときの「引きの強さ」や「駆け引きに勝つこと」、そのものが大きな刺激となりますし、さらにはスポーツ選手としての「勝負運の強さを試す」というような要素も相まって、身も心もギャンブルを欲するようになります。
今回の選手は、バカラ賭博にはまっていたと報じられています。バカラ賭博は、特に戦略性が求められ、一気に勝負がつくギャンブル。その性質に惹かれていたのかもしれません。また、そこに、違法賭博をしているという後ろめたさも加わって、得られる快感が日に日に手放せなくなっていったのかもしれません。ギャンブルで得られる快感は薬物で得られる快感に近い、と表現する方もいるほど。本人たちも苦しんでいたのではないかと想像できます。

●社会全体の問題として取組む姿勢を
薬物は「ダメゼッタイ」。しかし、カジノは海外では合法な所もあります。ですから、何らかの理由づけをして、闇カジノ通いを続けていたのかもしれません。理由づけをしながら、対象を止めることを回避するのは依存症者の特徴とも言えます。
以上のことを踏まえた時、単なる法令順守や道徳的な考え方だけでは問題の解決は難しく、試合に勝つことを主な目的としたサポートだけではない、もっと幅の広い「心の支援」が必要だと考えます。
選手の皆さんは、今回の2人の選手の会見をよく見て、自覚や根性ではどうにも止められないことがあるということ、良くないと分かっていても止められないのは、自身の心の中のどこかに問題があると知ることが必要でしょう。そして適切な回復手段につながることを促せる空気に、チームが満たされていることも大切です。
チームや協会は、スポーツ選手のメンタル面を「勝つ」ためだけに強くするのではなく、選手が自分自身を不安やプレッシャーから守れるよう、健全な方法で心身のバランスが取れるよう、指導やサポートし、大切にする必要があるのではないでしょうか。
21歳、26歳。今回、問題が発覚した選手の年齢です。
21歳の選手は、子どものころから将来を期待された選手として、結果も残してきました。その結果に注目が集まり過ぎて、コート以外での生き方について、何らかの支えは有ったのでしょうか?
26歳の選手もしかり。あくまで推測に過ぎませんが、スポーツ選手としての自覚、大人としての自覚が育まれて行くプロセスがどこかで阻まれていたならば、それこそ残念なことではないでしょうか。
この問題は、スポーツ選手やスポーツチームに限った話ではありません。企業や各種団体でも同様のことが言え、家庭でもあてはまる部分があるのではないでしょうか? 普段、スポーツ選手の活躍に熱狂し、感動をもらっている私たちは、選手が危機に陥った時こそ、本当の意味で応援できる、そんな社会を目指していきたいと思います。

三宅隆之profile
精神福祉士/国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会日本代表/一般財団法人ワンネスグループ副代表/一般社団法人セレニティパークジャパン代表/日本アディクションインタベンショニスト協会執行役員
1974年生まれ。ラジオ局ディレクター、司法書士事務所勤務を経て、2011年よりワンネスグループで勤務。ギャンブルやアルコール依存症からの回復を通して得た経験をもとに、当事者や家族の支援を行うほか、全国各地で依存症についての理解を深めるセミナーを開催したり、企業や団体で講演を行ったり、専門家として幅広く活動している。

三宅隆之個人ブログ『問題ギャンブルとカジノ対策を考える』
http://www.oneness-g.com/Psychiatric_Social_Worker/

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