依存症ラボ

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その他の依存症 2016.02.09

「依存症」から考える元キングオブコメディ・ 高橋健一氏 女子高生制服窃盗事件(後編)

○なぜ20年間も女子高生の制服を盗み続けたのか? 元キンコメ・高橋健一氏の生い立ち

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精神病院、老人ホーム、孤児院…“恐れ”を壁の向こうへ隠してしまえるというのは幻想だ。われわれ社会が負うべき責務である”

——フランコ・バザーリア(精神科医。イタリアで精神科病院を廃絶し、地域社会のなかで行う精神保健を創出した)映画『むかしMattoの町があった』(http://180matto.jp/)劇中句より

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●日本の性犯罪者への処遇の現状

 前編では元キングオブコメディ・高橋健一氏 女子高生制服窃盗事件について、依存症の観点から考察しました。今回は性犯罪者に対する処遇、また高橋氏の事件の背景に迫ります。

 諸外国では刑務所における「性犯罪者処遇プログラム(性依存や性犯罪を犯してしまう心的問題から回復させるためのプログラム)」をはじめ、「出所後にGPS装置を埋め込む」「居所を公的機関が把握し近隣住人にも公開する」「出所者の情報をインターネットで公開」「抗男性ホルモン薬により性欲を減退させる治療」など、さまざまな対策が行われています。

 日本でも「性犯罪者処遇プログラム」を導入している刑務所や、「抗男性ホルモン薬で性欲を減退させる治療」が行われている治療施設があります。性依存症を含む「依存症回復施設」もあります。

 ただ現時点では、刑務所内の「性犯罪治療プログラム」も、病院における「男性ホルモン治療」も

・実施している施設が少ない

・本人が希望しなければ、強制的に受けさせることはできない

のが実情です。また「男性ホルモン治療」については、実質的な去勢にあたるとして反対する声も多く、まだ日本では高い壁が存在しています。

○再犯防止は何のため、誰のため?

 私はこの10年以上、性犯罪の抑止・再犯防止について提言や取り組みを行ってきました。言うまでもなく、加害者をとっちめてやろう、というバカげた感情からではありません。義憤や処罰感情だけで申し上げているわけではないのです。

 性犯罪者が再犯を犯すのを防ぐこと。そのための取り組みを進めること。

 それはまず被害者にとって。また社会の安全を守り、第二、第三の被害者を出さないために。この二つはもちろん大切なことです。

 でもつけ加えてもうひとつ。見逃されやすい点があります。再犯を犯すことは“加害者にとっても”不幸なことなのではないかと思うのです。(終身刑のない日本においては特に)再犯率の高い犯罪については「刑罰」とともに「治療・回復支援」というアプローチをすべきだと、私は考えます。対象は当然男女問わずです。刑罰だけ、厳罰化だけでは、根本的な犯罪抑止・再犯防止にはなりません。そこに「治療・回復支援」をかけ合わせること。

 それこそが、まず被害者のため。また社会の安全を守り、第二、第三の被害者を生み出さないため。そして加害者に再犯を犯させないためにも求められることではないでしょうか。

○高橋健一氏は“底つき”の状態だった?

 今回の高橋健一氏の件で、世間が驚愕したのが「20年ほど前から同様の犯行を行っていた」という供述です。自宅から押収された制服は600〜700点にも及ぶと言われています。実は一連の犯行で高橋氏が捜査線上に浮かんだのは、2015年の初頭でした。裏付け捜査を続け、2015年の末に逮捕に至ったわけですが、警察も当初「一年ほどの犯行」と見て捜査を進めていました。ところがいざ逮捕してみれば、本人の口から飛び出したのは「20年間」という気の遠くなるような年月。捜査関係者もかえって驚かされたとも聞きます。

 さて、この状況ならば、罪を軽くしよう、ごまかそうと思えば、「2〜3年」とでも、なんとでも言えたのではないでしょうか。そこを本人自ら堰を切ったように「20年間やっていました」と吐露する…これは彼自身が、もう逮捕でもされない限り犯行をやめることはできない、というところまで追いつめられ、また自認していたからではないか。私には、そう感じられてなりません。もはや彼は(依存症で言われる)“底つき”の状態だったのではないか…。

 “底つき”とは依存症によって、本人がどうにもならない状態にまで陥ってしまうこと、底をつくことを指します。

○依存症者が“底をつき”助けを求めるのを待つほかなかったが…

 日本における依存症の治療・回復支援の世界では、自ら病気を自覚し治療へと向かおうとしない依存症者について「本人の“底つき”を待つしかない」とされてきました。本人が“底をつく”まで待つほかない、と。それが長くセオリーとされてきたのです。しかしそれを待つあいだに、命を落としてしまう人、廃人になってしまう人、家族とのあいだに取り返しのつかない殺傷事件が起きてしまうことなどが、後を絶ちませんでした。

 いっぽう依存症回復の先進国であるアメリカでは「インタベンション(介入)」といって、底つきなど待たずに早期に第三者の介入によって治療へと繋げる方法がとられています。日本における依存症回復支援の現状を底上げしようと取り組んでいるワンネスグループ(http://oneness-g.com/)の日本ファミリーインタベンションセンター(http://www.fic-ag.org/)では、この理論を日本でいち早く取り入れ、家族介入によって、依存症者の早期治療と、また依存症者の家族の人生の再建を支援しています。

○多額の借金を抱えた父と二人暮らし。“機能不全家庭”に育った高橋さん

 さてそこまでの状態に陥ってしまった高橋健一氏の生い立ちとはどのようなものだったのでしょうか。以下は、私が過去にご本人へインタビューした際にお聞きしたお話をもとにしています。母は早世、多額の借金を抱えた父と44歳で二人暮らし。「幼い頃から明らかな機能不全家庭に育った方」と、私の目には映りました。

 報道でもご実家の建物や、犯行に使ったとされる父の会社名義の軽トラックが映されました。たとえばご実家の建物のありよう、タオルなどが乱雑に散らかった軽トラックの様子。あの光景になんとなくでも機能不全ぶりを感じた方もいたかもしれません。少なくとも思い描かれがちな華やかな“芸能人”の家や生活ぶりとはかけ離れたものではなかったでしょうか。また警察発表のゴミ袋70袋に600着、50〜60校ぶんの制服が隠されていたとするならば、家族が同居する家のなかに、それだけのものを隠すことができる家庭環境とはどんなものか…推して知るべし、ではないでしょうか。

○高橋健一氏のパーソナリティが垣間見られる来歴とエピソード

 子どもの頃から芸人に憧れがあったという高橋氏。しかし当時はいまのように芸人養成所などのない時代でした。とはいえ、弟子入りを志願したり、ビートたけしさんのようにストリップ小屋のエレベーターボーイから成り上がりを目指したり、というまでの勇気はなかったといいます。高校を卒業する頃には、芸人の道は自分には無理だと諦めていたそうです。

 二浪して大学へ進学。卒業後はある大手光学機器メーカーの工場に派遣労働者として、二年間勤務しています。業務内容は、作動している機器を一日中じーっと観察し続けて、エラーが発生したら「出ましたよー!」と社員を呼びに行く、というそれだけのもの。しかもエラーの発生頻度は、週に一度出るか出ないか程度…だったといいます。

 おなじ業務に従事するまわりの労働者たちは「こんな単純で退屈極まりないこと、真面目にやってられっかよ」とばかりに適当にやりすごすなか、彼だけは真剣にその業務に日々取り組みました。たったひとり、愚直に機器の単純な作動を来る日も来る日も見つめ続けたのです。そうするうち、慰労会で上司から言われた一言が、彼の目を覚まさせます。

「高橋君。きみ、この仕事に向いてるね!」

 誰ひとり、まともにやろうとしない作業を実直にこなす姿勢を賞賛されたのでしょう。しかし、そのときに、ふと「(こういう仕事に向いていると言われる)俺、このままじゃ、ヤバいんじゃないか」と背筋が寒くなったそうです。後、その会社で正社員登用の話も出ましたが、ふとした偶然でプロダクション人力舎の養成所・スクールJCAの門戸を叩くことに。

 プロダクション人力舎は、アンジャッシュやアンタッチャブル、おぎやはぎなどの所属する事務所。無茶苦茶な芸風や、破天荒なタイプの芸人はあまりおらず、「ここならば、自分のようなタイプでも芸人を目指すことができるかもしれない。いまからでも遅くないのではないか」と考えたと振り返ります。ここにも彼のパーソナリティが垣間見られるように感じました。

 そして26歳という、芸人を目指すには、決して若くない年齢で入学を決めたのです。なお元相方であった今野浩喜氏は8歳も年下ですが、高橋さんのほうから積極的にコンビ結成を求めたそうです。

○依存症や生きづらさの問題は“社会の責務”として考えるべきでは

 そんな人生のなかで、いつしか人知れず歪みを内に抱えてしまった彼を、私たちは異質なものとして排除してよいものでしょうか。白眼視し、いたずらに事件を揶揄し意地悪く嘲っていいものでしょうか。

 もちろん彼の犯した罪は重大です。罪は罪です。

 犯した罪を寛容に見られるべき、ということではありません。

 ただ異質なものとして社会から排斥すること。臭いものには蓋をする。そんな社会が、第二、第三の加害者・被害者を生む、不幸な連鎖を作り出してしまうのではないでしょうか。冒頭に挙げた言葉を読み返してみてください。それは社会の責務ではないか。私自身も社会で負う責務、果たすことのできる使命を思い、筆を置きます。

※関連書籍『這い上がるヒント 諦めなかったお笑い芸人30組の生き様』大川内麻里 著(東邦出版)(http://www.amazon.co.jp/dp/4809410250/

★一般財団法人ワンネスグループ/ http://oneness-g.com/

★日本ファミリーインタベンションセンター/ http://www.fic-ag.org/

 

(文:麻生マリ子/母娘・家族問題研究家)

女性たちの抱える生きづらさの背景として、母娘関係に着目。10年間に渡る取材・著述活動を経て、現在は母娘問題・家族をテーマに研究、著作。また新聞や雑誌、WEB媒体などへ寄稿、コメント提供を行う。1977年、福岡県生まれ。自身も娘を持つ母である。

・ブログ:http://ameblo.jp/asomariko/

・公式Facebookページ:https://www.facebook.com/asomrk/

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